破衣錦心(はいきんしん) 臣道の巻

内容

ある日。関羽は相府に行き、二夫人の住む内院が雨漏りをするため、役人に修築を頼んだ。
関羽の帰り姿を見た曹操は呼び戻し、ぼろぼろの上衣を着ていたので、錦で作った上衣を与えた。

その後、曹操は関羽の襟元を見ると、ぼろぼろの上衣の下に曹操の与えた上衣を着ていた。
曹操は関羽に「なぜ古い上衣を上に重ねて着て、新しい上衣を惜しんでいるのか」と尋ねた。
「劉皇叔(劉備)からいただいた上衣ゆえ、捨てる気にはなれません」関羽は言った。
そこへ二夫人に仕える者が関羽を迎えに来た。二夫人が呼んでいるというのだ。
関羽は曹操にあいさつもせずに駆け去った。

関羽が館に戻ると、糜(び)夫人は、劉備が亡くなった夢を見たといって、嘆いていた。
関羽が二夫人を慰めていると、いつのまにか曹操の侍臣が来ていた。曹操が様子を探りによこしたのである。
曹操の侍臣は「酒宴の用意をしておりますので、再度お越しください」と言った。

関羽は相府に戻った。曹操の機嫌を損じないようにするためである。

酒宴では、関羽のひげの話しになった。
「秋になると数百のひげが自然に抜け落ち、冬になると毛艶がなくなります。極寒のときは、凍らせないように袋でつつんでいます」関羽は言った。

次の日。曹操は関羽を誘って参内した。
曹操は関羽に錦のひげ袋を贈った。
帝は関羽のひげを見て「美髯公(びぜんこう)」と言われた。

関羽が帰ろうとしたとき、関羽の馬が痩せていたので、曹操はなぜかと尋ねた。
「わたしの体が長大ですので、ほとんどの馬が痩せおとろえてしまうのです」関羽は答えた。
曹操は侍臣を走らせ、一頭の馬とともに戻って来た。
その馬は呂布が乗っていた赤兎馬(せきとば)だった。くせが強い馬なので、誰も乗りこなす者がいないという。
曹操は関羽に赤兎馬を与えた。
関羽がこんなに喜ぶ姿を、曹操も初めて見たので、その理由を尋ねた。
「一日千里走る赤兎馬がいれば、劉皇叔(劉備)の行方が知れたときに一日の内に飛んでいけますから」関羽はそう言って、赤兎馬にまたがり、帰って行った。
曹操は唇を嚙み締めた。

張遼(ちょうりょう)は曹操の許しを得て、関羽を訪ね、本心を探った。
戻って来た張遼は曹操に報告した。「関羽は、丞相(曹操)の高恩はふかくわきまえておりますが、ここに留まるつもりはありません」張遼は続けた。「なにか起これば、関羽はひと働きをして丞相の御恩に報いたいとも」
荀彧(じゅんいく)は言った。「関羽に功を立てさせないようにすることです。功を立てないうちは許都(きょと)にとどまっているでしょう」

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