草を刈る(くさをかる) 図南の巻

内容

張飛(ちょうひ)は、草刈り部隊を編成し、巴城(はじょう)の裏山の草を刈らせ、草を本隊へ運ばせることを、毎日させた。

厳顔(げんがん)は、張飛の草刈り部隊に十名の兵を紛れ込ませて、目的を探るように命じた。

草刈り兵になりすました厳顔の兵たちは、夜のうちに裏山へ入り、夜明けとともにやってきた張飛の草刈り部隊に紛れ込んだ。

その日の草刈りが終わり、本陣へ帰る途中、草刈り部隊の組頭は張飛に「雒城(らくじょう)へ向かうのなら、道なき所を切り開くよりも、巴城(はじょう)裏門の上から巴郡の西へ出る間道(かんどう)をお進みになられたほうがよいのではないでしょうか」と言った。
「そんな間道があったのか。どうしていままで黙っていたのだ」と張飛は大声で叱りつけ、その声は全兵に聞こえた。
張飛は「巴城は捨てて、雒城へ向かうぞ。兵糧を炊け。そのあとすぐに出発するぞ」と軍令をだし、部隊は大混雑した。

草刈り兵になりすました厳顔の兵たちは、張飛の陣営から抜け出し、厳顔に報告をした。
厳顔は手を打って、勝手を知る間道の要所要所に、兵を伏せて待たせ、厳顔自身も隠れた。

張飛の先鋒隊が通り、張飛も、厳顔の前を通って行った。
後方の補給部隊が見えた頃、厳顔は合図の鼓を高らかに打たせた。
身を伏せていた厳顔の兵は、おたけびをあげながら、張飛の部隊に襲いかかった。
厳顔の兵は、張飛の部隊を前後に分断し、後方の補給部隊を包囲した。
すると、補給部隊のなかからいないはずの張飛が躍り出て、厳顔は捕らえられた。
張飛は部隊を進める際、自身の影武者を置いて、先に行かせていたのである。

厳顔は張飛の前に引っ張ってこられたが、ひざまずかなかった。
「礼を知らぬか」と張飛は叱咤すると、「われ、敵にする礼を知らず」と厳顔は返した。
張飛は階上からとび降り、帯剣に手をかけて、「降参するといわぬと、その首が前に落ちるぞ」と言うと、厳顔はみずから首をのばした。
沈黙が続いたあと、張飛は厳顔の縄を解き、膝を折って再拝し、「厳顔。あなたは真の武将だ。さっきからの無礼をゆるしてほしい」と言った。
降伏を厳顔は誓った。それは張飛と義兄弟である関羽(かんう)や劉備(りゅうび)も同様に立派な人物だと思ったからであろう。
ここから雒城までに、大小三十七か所の城がある、と厳顔は言い、先鋒を申し出た。
厳顔を先に立てて進むと、城は門を開き、血を見ずにすべての要害を張飛の部隊は通ることができた。

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