あらすじ
一
劉備らは夜も昼も馬に鞭を打ち続け、柴桑の地へ向かった。
途中、豪家で車を求めることができ、夫人を車へ移した。
山の一方から五百の兵が二手になって追ってきたため、趙雲は劉備と夫人を先に走らせ、五百の兵を防いだ。
しかし、あくる日、またあくる日と劉備の進む道はふさがれていった。孫権の命令が八方にいきわたり、水路も陸路も遮断されていった。
「進退きわまったか」と劉備が痛嘆すると、趙雲は諸葛亮から授かった袋を開き、劉備の耳へささやいだ。
劉備は夫人の車へ近づき、「玄徳はここで命を絶たなければならぬ。御身は呉へ戻られよ。九泉の下で後の再会を待つであろう」と告げた。
夫人はすだれをあげて、驚きと涙の顔をあらわした。
そこへ徐盛と丁奉が部下を率いて現れた。
夫人は劉備を車のうしろに隠したあと、飛び降りると、徐盛と丁奉は地へひざまずいた。
夫人は「兵を連れて主人の車に迫るなど、謀叛人のすることです。おさがり!」と一喝し、二将の話を聞かない。ついには腰に帯している小剣の柄に手をかけた。
二
徐盛と丁奉は恐れひれ伏してしまい、前を通る劉備ら一行をやり過ごすこととなった。
徐盛と丁奉がすごすごと戻るなか、孫権の命令で追ってきた陳武と潘璋に会った。
事情を聞いた陳武と潘璋は「なんと気弱な。さあ、ついてこい」と、追いかけた。
劉備の一行に陳武ら四将が乗る馬が駆けこんできた。
四将がひざまずいて拝礼をしなかったため、夫人は叱責し、「私を斬る覚悟があるのなら、わたくしの前に立ってご覧」と言った。
四将はひとりも立つことができなかった。
三
追手の四将は夫人の車を見送ったあと、来た道を戻った。
しばらくすると、蒋欽と周泰がやってきたので、陳武が夫人とのやりとりを話すと、「かくなる上は、首にしてしまうまでのこと。主君孫権は我らに剣をお預けになったのだ」と言い、徐盛と丁奉は、早舟を出して柴桑にいる周瑜へ報告へ向かい、蒋欽・周泰・陳武・潘璋は江岸江上を防ぐため陸路を追った。
劉備らは柴桑の郊外を遠く迂回し、劉郎浦とよぶ漁村までたどりついた。しかし漁村なのに一艘の船もない。もうどちらへも進めなくなった。
「必ず遠謀があるに違いありません」と、趙雲は劉備をなぐさめた。趙雲が例の錦の袋の最後の一つを開けてみると、「破車汗馬ココニ業ヲ終エテ一舟ニ会セン」とあったからだ。
山ぎわのあたりから、敵の雄叫びが聞こえてきた。
その時、二十艘の快速舟が現れた。
「早くお乗りください」と、口々に呼んでいる。その舟には諸葛亮が乗っていた。