趙子龍(ちょうしりゅう) 三国志(八)図南の巻

・黄忠、北山の兵糧倉を焼く

あらすじ

老将黄忠は、夏侯淵の首を持ち、葭萌関(かぼうかん)にいる劉備に見せた。劉備は喜び、黄忠を征西大将軍に任じ、その夜、大酒宴を開いた。そこへ、前線を守る大将張著(ちょうちょ)から知らせが入った。「曹操が二十万騎をひきい、漢水まで迫っており、そこに兵馬をとどめて、米倉山(べいそうざん)の兵糧を北山のほうへ移している様子です」諸葛亮は劉備に「魏軍の兵糧を奪うことに成功したら、次の戦は有利に戦えます」と言った。そばで聞いていた黄忠は「わしに命じられい」と名乗り出たが、諸葛亮は顔を横に振った。黄忠は諸葛亮に「命を与えよ」と言い続けたので、副将に趙雲をつれていくことを条件に、黄忠に命を与えた。

趙雲は漢水まで来ると、黄忠に「策はお持ちか」と尋ねた。「そんなものはない。いつも死を覚悟しているだけだ」と、黄忠は言った。「午(うま)の刻までに戻らなければ、援軍をだしてくれ」と、黄忠は言い残すと、五百の部下を連れて、進んで行った。未明に漢水を渡り、夜明け頃には魏軍の兵糧がある北山のふもとまで、黄忠は迫った。朝霧のなか、黄忠は号令を下し、まだ眠っていた魏兵を襲った。

その朝、漢水の東に陣していた張郃は、北山の煙を見て、すぐに北山に駈けつけた。すでに兵糧の倉は、炎につつまれており、山道や坂路では、蜀軍と魏軍の兵が入り乱れて戦っている。張郃は戦いの中に入って行った。北山の黒煙は、曹操の本陣からもよく見えた。曹操は徐晃を救援に送った。

時は巳(み)の刻は過ぎていた。午(うま)の刻にはすこし間があるが、あの黒煙が空に見えだしてから時も経つため、蜀軍趙雲は部下の張翼に「敵が迫るまで、みだりに動くな」と言い残し、三千の兵を率いて、北山の黒煙へ向かった。途中、魏軍慕容烈(ぼようれつ)が道をふさぎ、北山の麓では、魏軍大将焦炳(しょうへい)が構えていたが、趙雲はともに槍で突き倒した。

五百の兵が三分の一になり、追い込まれていた黄忠軍は、趙雲が救いにきたと知ると、歓呼をあげて、集まってきた。蜀軍張著(ちょうちょ)が見えないと聞いた趙雲は、魏軍に囲まれていた張著を救い出し、蜀軍の陣に戻って行った。

趙雲が祝杯の用意を命じていたところへ、後詰(ごづめ)の張翼が、慌てて入ってきて「諸門を閉めて、吊橋(つりばし)をあげろ。漢水を越えて曹操が来た」と、祝杯どころではないというような顔をして告げた。それを聞いた趙雲は張翼の臆病さを叱った。趙雲は策を指示したあと、ただ一騎、槍を横たえて、壕橋(ほりばし)に趙雲は立った。手をかざして彼方を見ると、魏の大軍が迫って来ている。

城の間近まで魏軍は迫ったが、そこでぴたりと止まった。誰かひとりが濠橋の上に立っている。そのことが計りごとだと感じ、近づけないでいたのだ。中軍にいた曹操は、陣前へ出て、進めと命じた。徐晃(じょこう)、張郃(ちょうこう)の兵がどっと進んだ。趙雲は下へ向って合図をすると、濠の蔭から無数の矢を放った。魏軍の人馬は、バタバタと倒れ、曹操は逃げ出した。蜀の別働部隊は、米倉山の横道を迂回しており、また一手は北山のふもとへ出ていた。城内からは趙雲を先頭に、全軍が追撃したため、魏軍は逃げた。途中、漢水がさえぎり、魏兵は溺れる者、討たれる者、多数であった。

メモ

●注進(ちゅうしん)
事件が起こった時、それを急いで報告すること。

●輜重(しちょう)
軍隊で、前線に輸送、補給するべき兵糧、武器などの軍需品の総称のこと。

●妙計(みょうけい)
普通には思いつかないような、巧みなはかりごと。

●炬(きょ)
たいまつ。

●草芥(そうかい)
くさとごみ。

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