于吉仙人(うきつせんにん) 孔明の巻

内容

孫策(そんさく)の監視隊は、渡江中であった呉郡太守許貢(きょこう)の使者を捕らえ、呉の本城へ送った。
取り調べると、使者は曹操宛の密書を持っていた。孫策は都を攻めのぼる準備をしている、という内容であった。
孫策は許貢の居館へ兵を向け、許貢をはじめ全員を斬った。そんななか、三人の食客が逃げ逃れた。

ある日。孫策は狩りにでていた。
孫策は一頭の鹿を射止め、振り向いた際、顔に一本の矢が立った。
「許貢の仇」三人の食客浪人が躍り出た。
孫策はひとりを斬ったが、ふたりにうしろから槍で突かれた。
駆けつけて来た孫策配下の程普(ていふ)は二人の浪人を斬った。

本城へ戻った孫策は華陀(かだ)を呼ぶよう命じた。
名医華陀の治療により、二十日もたつと孫策の容体は良くなった。

都に在任していた蒋林(しょうりん)が呉に帰ってきた。
「曹操はおれのことをどういっているか」孫策は尋ねた。
「思いあがりやすく、図に乗って必ず失敗する。名もない者の手にかかって終わるだろう」蒋林は余計なことまで話した。
孫策は激怒し、すぐに曹操を攻める、と言い出した。

そこへ袁紹(えんしょう)の使者陳震(ちんしん)が孫策を訪ねた。
陳震は、南北から曹操を攻めるために、孫策と袁紹の軍事同盟締結を力説した。
孫策は大いに喜び、大宴を開いた。

宴も半ばの頃。諸将は席を立ち、高殿から降りていった。于吉仙人(うきつせんにん)が来られたので、拝みにでたのだ。
孫策は于吉仙人を捕らえ、獄に入れた。

次の日。呂範(りょはん)は孫策に言った。
「于吉仙人に雨乞いの祈りをさせ、雨が降れば助け、降らなければ斬る。そうすれば万民も納得するでしょう」
市街の広場に祭壇が造られ、于吉仙人はそこに座った。
「今日から三日目の昼の十二時までに雨が降らないときは、この祭壇とともに燃やす」孫策の使いが大声で言った。

三日目の日。祭壇のまわりには数万の群衆がいた。
昼の十二時となり、鐘が鳴った。雨は降らなかった。
孫策は命じた。祭壇は炎の中に包まれた。
一筋の黒気が空へ立ちのぼった。雷が鳴り、大粒の雨が降り始めた。
昼の三時ごろ、祭壇からの大喝により、大雨はやみ、太陽が姿をみせた。
刑吏が半焼けの祭壇を見ると、于吉仙人が仰向けに寝ていた。
諸大将は于吉仙人を抱きおろし、ひざまずいて拝んだ。
衣服が濡れるのもいとわない諸大将の姿は、孫策には見るに堪えなかった。
孫策は于吉仙人を斬れと命じたが、誰も進み出ないため、みずから剣を抜き、首を斬った。

その日の夕方から、孫策の目は赤く充血し、熱が出始めた。

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