馬騰と一族(ばとうといちぞく) 望蜀の巻

内容

劉備(りゅうび)は龐統(ほうとう)を副軍師中郎将(ちゅうろうしょう)に任じた。

建安(けんあん)十六年初夏のころ。劉備が治める荊州は勢力拡大に目ざましいものがある、という報告を曹操(そうそう)は聞いた。
そばにいた荀攸(じゅんゆう)は献策した。
西涼州(せいりょうしゅう)の太守馬騰(ばとう)に劉備を討たせる、という詔を曹操は発した。

馬騰は朝廷に上り、帝を拝した。
帝は無言のまま馬騰をともない、麒麟閣(きりんかく)へ登って行き、誰もいないところで口を開いた。
「漢朝の逆臣は劉備ではなく曹操だ。朕(ちん)の衣帯(いたい)の密詔を忘れはおるまいな」

それから三日目のこと。曹操の門下侍郎(じろう)黄奎(こうけい)は、出兵の日を尋ねに馬騰を訪れた。
馬騰は酒を出し、黄奎は酒に酔った。
「われらは共に漢の忠臣。曹操討つべし」黄奎は言った。
黄奎を疑っていた馬騰だが、黄奎は自分の指を噛み、血をそそいで天に誓ったので、馬騰も本心を明かした。
二人は曹操を刺し殺す手筈を相談し、別れた。

黄奎に妻はなく、姪の李春香(りしゅんこう)と暮らしていた。
李春香には苗沢(びょうたく)という好きな男がおり、今宵も会っていた。
「今夜の黄奎は様子がおかしいから、どうしてなのか尋ねよ」苗沢は李春香に言った。
李春香は言われたとおりに黄奎に尋ねると、黄奎は心中の秘を語った。
その話を立ち聞きしていた苗沢は丞相府(じょうしょうふ)へ走った。

深夜であったが、曹操の耳にはすぐに入り、曹操は黄奎と馬騰を捕らえ、首をはねた。馬騰の邸は四面から焼かれ、馬騰の兵は全滅した。
そのなかで、甥の馬岱(ばたい)だけは関外へ逃げることができた。

苗沢は曹操に褒美として李春香を妻にしたいと願い出た。
曹操はあざ笑って、苗沢の首をはね、義理に反し、ずるがしこく、器量が小さい者として、その首を往来の見世物にした。

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