第七巻 望蜀の巻 第一八一回 馬騰と一族
あらすじ
建安十六年初夏のころ、早馬が曹操へ報告する。
「劉備のところに龐統が加わり、荊州は軍備増強しております」
そばにいた荀攸は曹操に献策する。
「劉備を討て」との詔を受けた馬騰は甥の馬岱を連れて許都へ向かう。
馬騰は帝に会う。荊州討伐の大命を受け、そのお礼を言うと、帝は無言のまま馬騰を伴い麒麟閣へ登る。
誰もいないところで帝は初めて口を開く。
「玄徳は漢室の宗親である。漢朝の逆臣とは彼ではなく曹操だ。曹操こそ朕を苦しめるのだ。馬騰、そちの兵はどちらを討ちにきたのか」
馬騰はひれ伏したままでいる。
「馬騰、忘れてはいないだろうな。むかし国舅の董承と汝へ降した朕の衣帯の密詔を」
馬騰は邸へ帰ると、密かに一族を呼ぶ。帝の内詔を伝え、勤王討曹の旗あげを密儀する。
それから三日後、曹操部下の黄奎が馬騰を訪ね、南征出兵の日を確認しに来る。
馬騰は酒を出して、黄奎をもてなす。黄奎は大いに酔う。
「真に討つべきものはどこにいると思われるか。漢朝の臣であるふたりが漢朝の宗室である劉玄徳を討ちに向かう。しかも逆臣曹操の命によって」
それを聞いた馬騰は本心を明かし、黄奎は狂喜する。
ふたりは曹操を斬る計画を立てる。
「都下出発の朝に曹操の閲兵を乞い、陣鉦の合図でと」
黄奎は夜遅く家へ帰る。
今宵も姪の李春香は恋人の苗沢と立ち話をしている。
苗沢は李春香へささやく。
「馬騰の邸でお留守居役をしている弟から妙なことを聞いた。おまえが尋ねれば何か打ち明けるに違いない。そっと尋ねてごらん」
黄奎は李春香の話に驚くが、小娘なので心中の秘を語ってしまう。
室外で立ち聞きしていた苗沢は、風のごとく走って、丞相府の門を叩く。
曹操は二隊を走らせ、黄奎と馬騰の首を斬る。また馬騰の邸を四面から焼きたてた。
そんな中、甥の馬岱だけが関外へ逃げ落ちることができた。
一方、密告した苗沢は曹操に願いを出して李春香を妻に賜りたいと乞う。
曹操は苗沢を城市の辻に立たせ、首を斬る。不義佞智の小人もまたかくの如しと見世物にした。