食客(しょっかく) 孔明の巻

内容

曹操は冀州(きしゅう)の城にとどまり、漳河(しょうが)のほとりに銅雀台(どうじゃくだい)を築いた。
息子の曹丕(そうひ)と曹植(そうしょく)を鄴(ぎょう)城へ留め、曹操は約三年ぶりに許都へ引き揚げた。

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劉備は荊州(けいしゅう)の劉表(りゅうひょう)のもとにいた。いわゆる食客の境遇であった。

江夏(こうか)の地で、張虎(ちょうこ)と陳生(ちんせい)という者が乱を起こした。
劉備はみずから望んで討伐に向かい、張虎と陳生を斬り、乱を治めた。
この戦いで、劉備は張虎が乗っていた一頭の名駿を手に入れた。

ある日。城外の馬場へ出たところ、劉表は劉備が乗っている馬を見て、褒めた。
劉備は馬から降りて、劉表に献上した。
劉表は馬を乗りかえて、城中へ帰った。
「的盧(てきろ)だ」門の近くに立っていた蒯越(かいえつ)という者が、劉表の馬をみて驚いていた。
蒯越が言うには、凶馬の特長があり、この馬に乗る者は祟りをなすと。

次の日。酒宴の席で、劉表は劉備に昨日無心した馬を返すと言った。また、河南(かなん)の襄陽(じょうよう)のそばにある新野(しんや)を守ってほしいと言った。
数日後、劉備は新野へ出発した。

新野に移り、劉備の正室甘(かん)夫人に男児が生まれた。幼名は阿斗(あと)、のちの劉禅(りゅうぜん)である。建安(けんあん)十二年の春だった。

ある日の酒宴でのこと。劉備と曹操とが英雄を論じた話を聞いたことがある、と劉表は劉備に言った。
「一国を持ち、兵力さえ持てば」劉備が言いかけたとき、劉表の顔色が変わった。劉備はあわてて笑い、酒を飲んでごまかした。
劉備のことばを聞いた蔡夫人は、このことを兄蔡瑁(さいぼう)に伝えた。

午前四時ごろ。蔡瑁は劉備のいる客舎を兵で取り囲んだ。しかし劉備はいなかった。劉表配下の伊籍(いせき)がこのことを耳にはさみ、先に劉備に知らせていたのである。
蔡瑁は部下に命じて、自分が作った反逆の詩を客舎の壁に書かせた。

劉表は劉備のいた客室の壁に書かれた詩を見た。
蔡瑁は劉備のいる新野への出陣を求めた。しかし劉表はそのまま城中へ戻ってしまった。

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