内容
葭萌関(かぼうかん)を退いた劉備(りゅうび)は、荊州(けいしゅう)へ帰るため、高沛(こうはい)と楊懐(ようかい)が守る涪水関(ふすいかん)へ向かった。
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涪水関の大きな建物が見えた頃、関門から一群の軍隊が劉備軍の方へ向かって来た。
遠路途中の慰労として、おびただしい酒の瓶(かめ)や小羊、鶏の丸焼きなどを運び、劉備軍に献上した。
劉備軍はそこに幕舎を張って、献上されたものを飲み、食べ、休息をした。
高沛と楊懐は兵三百をつれて陣中見舞いに訪れた。
劉備は二人を迎い入れ、酒宴は賑わった。
関平(かんぺい)と劉封(りゅうほう)は、不意に楊懐と高沛をうしろ手に縛りあげてふところを探ると、ともに短剣があらわれた。
楊懐と高沛の首は斬られた。
「高沛と楊懐がつれて来た三百の関門兵はどうしたか」劉備は問うた。
「酒を飲ませ、肴(さかな)を喰らわせているので、彼らは狂喜している様子」龐統(ほうとう)は答え、劉備に小声で一計をささやいた。
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星が出た頃。龐統は先頭に捕虜の関門兵三百を立たせ、涪水関の下へ近づいて行った。
「楊懐将軍、高沛将軍のお戻りであるぞ。開門開門」先頭の兵は叫んだ。
昼間の出来事を知らない関門の蜀兵は、鉄扉を開いた。
劉備は涪水関を占領した。
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その日の夜。祝宴を開き、劉備は泥のように酔って眠ってしまった。
夜明けごろ。劉備は眼をさますと、龐統はひとり、まだ飲んでいた。
「ゆうべは実に愉快だった。酒を飲みつつ一城を奪ったようなものだ」劉備は言った。
「人の国を奪って、楽しみとするは、仁者の兵にあらず、あなたらしくもありませんな」龐統は返した。
劉備は顔色を変えて龐統を叱り飛ばした。
龐統は慌てて退出し、劉備は左右の者に介添えされて後堂の寝所へ入った。
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眼をさました劉備は着替えていると、近侍の者から、龐統を叱り飛ばした今朝の出来事を聞いた。
劉備は龐統をよび、今朝の無礼を詫びた。
「みな酒中のこと。酒中別人です。わたくしの皮肉もお気にかけて下さるな」龐統は言った。
ふたりは手をたたいて笑った。
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