第七巻 望蜀の巻 第一八六回 兵学談義
あらすじ
味方同士で疑いの目を向け、味方の中に敵を作る。敵中作敵の計は見事に成功する。
馬超は渭水の仮橋まで逃げのびてきた。
つき従う兵はわずか百騎にも及ばない。
八旗のひとりである李湛が馬超のもとへ駆けてくる。
馬超は味方の合流に喜ぶが、李湛は鎗をひねって撃ってかかる。
馬超は激怒して反撃する。
「貴様も謀反人の片割れか」
李湛は恐れて逃げる。
その時、一方から曹操の部下于禁が迫り、馬超めがけて矢を放つ。
馬超は馬の背に屈みこんだため、矢は李湛の背を射抜き、馬から落ちる。
夜は更け、やがて夜が明ける。
馬超は橋の上で味方が来るのを待つが、誰も来ない。
橋のたもとにいる敵は囲みを厚くするばかり。
馬超は敵の大軍へ突撃し、従う兵はつぎつぎと姿を没した。
ついに馬超ひとりが曹操軍と奮戦している。
その時、西北の方から、馬岱と龐徳が駆けてきて、曹操軍の側面を衝いて蹴散らす。
龐徳は馬超の身を鞍わきに抱きかかえると、逃げ落ちて行った。
逃げ落ちる馬超を曹操軍は追撃し続ける。
曹操軍が長安郊外まで来ると、都から荀彧の使いが一書を届ける。
「南方に動きあるため、いち早く許都へお戻りを」
曹操はただちに全軍引き揚げの軍令を下す。
曹操は左の手を斬り落された韓遂を西涼侯に封じ、元涼州の参軍楊阜と韋康に冀城を守らせる。旧都長安には韓遂・夏侯淵・張既が残って守ることとなる。
都へ戻る前夜、曹操は諸大将と一緒に酒を飲む場を設ける。
その席上で諸将が馬超との戦についていくつか質問した。
曹操は説明する。
初戦、敵の正面を突いたのは、敵の兵力を味方の前に集中させるためだ。目的は敵の背後をとるために徐晃ら別動隊を動かすためである。
途中、城を焼かれたり、地下城が流されたりしたのは、わざと失敗を敵に見せ、敵を驕り誇らせるためである。
敵中作敵の計はあらかじめ考えていたものではない。戦機の勘から生まれたのである。常道では生まれないのだ。
西涼軍の兵力が刻々と増したとの報告に、わしが手を打って喜んだのは、西涼軍がみずからいちどに集まってきたからである。もし西涼へ遠征しようとすれば、莫大な軍費と兵力と年月が必要となる。ひとつにあつまれば、一気に制圧できる。そう考え、喜んだのだ。
曹操の説明を聞き、諸将は嘆服する。
「丞相いまだ老いず」
都に帰った曹操を献帝は出迎える。曹操を恐れてのことだ。
そして仰せられた。
「漢の相国蕭何の如くせよ」
つまり、履のまま殿上に昇り、剣を佩いて朝廷に出入りすることを許されたのだ。