第七巻 望蜀の巻 第一八三回 渭水を挟んで
あらすじ
あくる日、曹操本軍と馬超率いる西涼軍が潼関の東方でぶつかる。
戦力は西涼軍が勝り、曹操軍は逃げる。
追う西涼軍の兵が叫ぶ。
「曹操は紅の戦袍を着ているぞ」
曹操は戦袍を脱ぐ。
追う西涼軍の兵が叫ぶ。
「髯の長いのが曹操だ」
曹操は自身の剣で髯を切って捨てる。
追う西涼軍の兵が叫ぶ。
「曹操は髯を切って逃げている」
曹操は旗を奪い取って顔を包み、逃げのびる。
曹操は曹洪が後ろを守り、馬超の追撃を食い止めていたことを知り、にんまりとする。
「先日の罪は、今日の功をもって許す」
[先日の罪とは、潼関を固く守れという曹操の命令を破ったことを指す]
曹操は河を隔てた場所に陣を敷き、守りに徹する。
曹操の消極的な戦法に武将らはささやく。
「お年齢のせいかもしれん」
数日の後、斥候が曹操に報告する。
「西涼軍に二万の兵が増強されました」
曹操は大いに笑って言った。
「酒宴を開こう」
[曹操は打つ手がなく、開き直ったのか]
酒宴の席では武将らがくすくすと笑っている。
曹操は言う。
「予が馬超を討つ策がないのを笑うのであろう。ひとを笑うほどな策のあるものはここで語れ」
武将がみな、顔を見合わせるなか、ひとり徐晃が策を述べる。
曹操はそれを認め、実行に移す。
それから間もなくして、曹操軍は船筏を作り、渭水を渡り始める。
残りは曹操と残り百人ほどとなったとき、馬超の軍が後方より襲う。
船を引き返してきた許褚が曹操を背負い、船の中へ飛び乗る。
西涼軍の兵は、曹操の乗る舟へ雨のごとく矢を放つ。
許褚は馬の鞍と鎧の袖を盾にして曹操を守る。
渭南の県令丁斐は曹操の危機を見て、南山の上から牧場の牛馬を解き放つ。
西涼軍の兵は、曹操よりも馬や牛に夢中になり、奪い合う。
「あの肉はうまい」
曹操は北岸へ上がり、逃げのびる。
曹操は丁斐を典軍校尉に任じて、功に報いる。
一方、馬超に報告が入る。
「曹操軍が河を越えてわが軍の背後を狙う動きがあります」
馬超は曹操が城を築くことを恐れている。
そうなると容易に渭水を抜くことができなくなるからだ。
韓遂と龐徳は千騎を率いて、曹操の陣を夜襲する。
実は夜襲をしかけた曹操の陣は仮陣屋であり、擬兵・擬旗を並べ、周りには落とし穴を作り、実際の本陣は別の場所へ移していた。
これは丁斐の献策である。
仮陣屋へ殺到する韓遂・龐徳の兵は落とし穴に落ちて行く。
この夜襲は大惨敗に終わる。
その日のうちに、今度は馬超みずから曹操の中軍へ夜襲をしかける。しかし一兵もいない。
轟音が鳴り、伏せていた曹操の兵が四方から馬超を襲い、撃退する。
曹操は馬超の性格を考え、このことを予察していたのだ。
このとき、八旗の将のひとり成宜が夏侯淵に討たれている。